ステイタス

2007年5月27日
先週、彼女になりました。

先週土曜日。
彼からの久しぶりのメール。
「晩御飯でもどうですか?」
尻尾を振りそうになったけれど友達との食事中だったので、
そっけなく。
出来る限りの、冷たさで。

「あぁ、でも今日車ないんです」

我ながら、意地の悪い書き方だ。
終電でも逃したのだろう、と予想したから。

「いまどこ?」

意外なメール。
結局1時間程待たされたが、合流して食事に行った。
いつものように、ガストだと、予想していた。

「こんな遅くだからどこも開いてないね」
「ガスト?(笑」

彼が苦笑で返す。
前に12時過ぎまでやっている創作料理店をみつけていたので
そこを提案した。
連れて行って、欲しかったから。

食事を取った。
楽しかった。
デート、をした。
気分に、なれた。

閉店の13時半までまったりとし、それから・・・

「どっちに行く?」

店の右に曲がれば自宅。
店の左に曲がればホテル。

「右でしょ?」

あえて聞く。
あえて答える。

「じゃ、左だ」

笑いあう。
もう少し一緒にいたい、と言う気持ちが
通じたのだと思った。

「どこか、ドライブコース知ってる?」

唖然とする。
すぐにホテルに行き、寝てしまうのだと思い込んでいた。
「え。ドライブ?」
「お腹一杯過ぎて死にそうだからね」
「・・・信貴山、から、夜景とか?」
デートだ。
まるで、愛されているみたいじゃないか。

「信貴山はもう閉まってるよ?それでも行くの?」
「夜景スキなんだよ」
「俺んちからの方が近いし、この前みんなで行ってきたんよ」
「年末にKと行ったんだ。キレイだった」
「・・・やらしいなぁ」
「初詣行って、その後初日の出を見たんだよ」
「へぇ」

本当は、キミと見たかった。

乗り気ではなさそうだった彼が車を回す。
「どうしたの?」
「・・・いや、行ってみるかなと」
嫉妬している。
お互いに。
だって、男友達と二人で初日の出って言われたら気分も悪かろう。
でも、男だけで夜景を見に行くなんてのも嘘だとわかるよ?
お互いがお互いを浮気していると確信した瞬間だった。

・・・私は、残念ながら浮気はしていないが。

途中のローソンでコーヒーを買う。
二つ。
彼の好きな甘いコーヒーだ。
嬉しくて思わず笑みがこぼれる。
彼にはばれないように。
無表情を装う。

さぁ、出発だ。

信貴山を登る途中、美しい夜景が見えた。
「ありがとう」
「え?何が?」
「・・・嬉しい。夜景大好きなんだ、あたし」
君と見る、夜景がすき。
私は正直花も光も、余り興味がない。
余り美しいという感情が無機物に対してないから。
興味がない、から。

「俺も、好きな音楽聴きながらドライブできて嬉しいよ」

彼が口を開く。
こんな風に、彼が感想を口にするのは初めてだった。
驚いて軽口を叩く。

「あたしといて、楽しいの間違いじゃないの?」
「それでもいいよ」

顔が赤くなる。
彼の腕をぎゅっと握る。
耳の奥まで熱が上がる。
もう、胸が痛くなるかと思った。
嬉しくて、何度もありがとう、と言った。
彼がにこりと笑った。
いや、にやり、だ。

信貴山は、閉まっていた。
私たちは下っていく。
現実に戻るために。

「あ」

一瞬にして視界が開けた。

その場所は頂上に向かうのではなく、八尾に抜ける道。
何度も往復し、一番良いポジションを見つけ出す。
運転が余り得意でない彼が、困った顔をしながら切り返す姿は、
一種子供を見るようで愛おしかった。
何よりも、私のために探してくれていることがはっきりと解ったから。
涙が溢れるのを感じていた。

でも私は泣かなかった。
プライド、が邪魔をする。

橋の上。
私たちは車を止めてゆっくりとキスをした。

まわされる腕。
頭を預けて夜景を見つめる。
まるで、今は恋人同士のようだ。

「綺麗なぁ・・・」
「うん、綺麗やなぁ・・・」

そう言って、二人で夜景を見つめる。
この光の一つ一つ。
その下では。
息づいている。

何度もキスをした。

パトカーが一瞬通り過ぎ、彼が慌てているのを見て、
私たちは笑いあった。
幸せ、だと、思った。
そしてまた、キスをした。

引き寄せられるからだ。

1時間ばかりもそこにいただろうか。
私は現実の世界に引き戻される。
・・・帰らなくては。

下山し、道に迷った。

「・・・こっち道ちゃうと思わん?」
「ちゃうなぁ」
「どうする?このまま逃げちゃう?」
「暢気やな、お前。ガス欠なりかけてるのに」

笑いあう。
もと来た道を引き返す。
人生も、そう出来たらいいのに。
どこで間違えたのか。
修正できたら、いいのに。

「でも」
「ん?」
「・・・ガソリン入れたら、お前とこのままどっか行くのも」
「え?」
「ええかも。ここがどこなのかも気になるし」

赤くなる。

結局それは実現しなかったけれど。
心の奥がぎゅう、となった。
不器用な彼の口からつむがれる言葉のひとつひとつ。
その一つ一つを結晶にして持ち歩けたなら。
これから先の悲しみにもきっと、耐えられるのに。

この幸せが永遠なら。

何とかいつものホテル街に戻ってきた。
私はあえていつもと違うホテルを選ぶ。
和室。
彼と笑いあう。
すぐに布団に入り、キスを交わす。
身体を少しだけ重ねたけれど、疲れが先行していたので。
腕の中に飛び込んで眠った。

彼はその後、正午まで眠り込んでしまった。
9時から起こしたけれど起きる気配もなく。
私はずっと寝顔を見つめていた。
予感がしていた。

彼はきっと起きたらこういうのだろう。

「予定があるから帰らないと」

予想は的中。
起きてすぐに身支度を始める。
彼女のところに行くのだろうか。
そう思うと、もうダメだった。

私はこいつを手に入れたい。

「ねぇ」
「何?」

平和そうににやけながらキスをする。
胸が痛い。
考える。
私は彼を愛してない。
それは自分が一番良く知っている。
そして彼も私を愛していない。
それも良く解っている。
愛していないからこそ、音信不通にする。
都合のいいときだけ私を呼び出し、最近は身体を求めるばかり。
その態度の変化で自分が軽ろんじられていることを実感している。

そして、何より。
私の心は、揺れている。
誰に、とかではない。
愛情を感じるのは共にいるときと寂しい時だけ。
薄れているのだ。愛情が。

でも、決別も辞さない気持ちで。
私は彼を手に入れたい。
ステイタスが、欲しい。
たとえそれが、偽りの恋であっても。

「私、ツトムのことが、好き」
「・・・」
「だから、彼女、に、なりたい」
「・・・うん」
「じゃなきゃ、もう別れたい」
「・・・うん」
「付き合って?」
「・・・」
「別れる?」
「・・・すき」
「・・・」

「・・・ボクも付き合いたい。ありがと・・・」

彼が真っ赤になる。
1年と3ヶ月。
無言で沢山のキスをする。
時々「スキ。」と言う。
ここ最近彼はちゃんと好きだと言える様になった。
その言葉をクチに出せるようになった。
頭を撫でてあげる。

でも、正直少し複雑だったのは、秘密。

ほんの少しの後悔が胸をよぎる。
だって、彼はきっとこの先も変わらず音信普通にするだろう。
私は彼と昼間逢う事もないのだろう。
相変わらず彼は友達か彼女か知らないが別の人と休日は過ごすのだ。
解っていたから。
どちらかと言うと決別を望んでいた。
それも事実だった。
会社が定時で終わるときは、いつものように連絡がつかないだろう。
そして、彼は変わらずコンパに行く。
そして私たちは会社を離れると、平日会わなくなる。

こんな風に土曜日に会うのは。
次はいつになるのだろうね。

彼の胸に顔をうずめる。
彼が優しく髪を撫でる。
ありがとう、と彼がつぶやく。
胸が痛んだ。

「もう、不安にならなくても、いいんだね?」
「うん。ありがとう」

彼に自宅まで送ってもらい、抜け道を案内するべく、私も車にのった。
両親が機嫌悪そうな目でこちらをにらむ。
我が家は実は門限に厳しい。
家に帰ると食事抜きだ。

高速乗り口まで彼の車を先導し、帰宅する。
彼から「抜け道案内ありがとう」とメールが来る。
知っているんだ。
キミが私を利用していること。
でも私も君を利用している。
君の愛を獲られないことを知って、色々な男性と遊んでみたりして。

身体の関係は君だけだけど。
心は他の人に満たされている。
満たしきれない寂しさに毎日もだえている。
これはまるで優しい業火に焼かれているみたいだ。

今週は、やはり彼と連絡がつかない。
どうやらコンパに行ったらしい。
真夜中、彼からのメールを待って。
音信不通を感じた。

後4日。
会社が終了する。
色々な事が思い出されて。
送別会で、泣いて帰れなくなった。
彼に電話とメールをした。
勿論でてもらえなくて、メールも無視だ。

あたしたちは、
きっともうダメなんだ。と。
理屈では解っている。
どこかで予感している。
だから明示的にステイタスを求めた。
そして、獲得してしまった。
・・・後悔、している。

取り消したい。
正直な気持ち。

あたしたちは会社が変わればもう逢わない。
それは直感。
悲しいくらいの、現実。

今日一日、彼に思いを告げようか迷っている。
今の私の気持ちを、包み隠さず。

「私は、キミの都合のいい人形じゃないから」
「性欲を処理する為だけにあっているわけじゃないよ」
「私のメールは全て無視するのに、君からの誘いにだけ応じてる」
「・・・でも、キミからの誘いなんて殆どない」
「そして、私は平日の夜だけの付き合いは、苦しいし疲れるよ」
「約束、守ってくれないじゃない」
「友達、友達、友達、友達!!!私は何?」
「・・・苦しいよ」

誰か、助けて
そう叫びだしそうになる。

再来週、両親を旅行に行かせることにしたのは。
彼とゆっくり自宅で食事を取ってみたかったから。
彼も8日は空けると言ってくれていた。
勿論、キャンセルされたんだ。
8日は友達とレッチリのライブに行くらしい。
・・・私のほうが確実に約束を早くしていたのに。
私がレッチリスキだって、知ってていうんだ。

メール無視とあいまって私は切れた。
9日に元彼が来る。
家に泊めることにした。
9日来る?と声をかけていたが、即キャンセル。

「9日用事が出来ました。逢えません。以上です」

この寂しさが埋まるなら。
愛されるふりをしてみよう。
元彼への思いを振り切るために彼氏と寝たんだ。
1年3ヶ月前。
彼に迫られた時。
私は途中で抵抗を辞めた。
それは、元彼を諦めるため。

また同じコトを繰り返そうとしてる。
・・・少なくとも、家に泊める間、別の友人の所に行くことにした。

過ちを繰り返したくないから。

彼を愛しているからじゃない。
自分の保身のため。
自分を守るため。
これ以上傷つきたくないから。

自分が汚れた生き物だと自覚したら。
なんだか涙が止まらなかった。

ステイタス、なんて。
いらなかった、のに。

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